オスマンティウスというハンドクリームに
さとみさんが足を止めて
ああこれ金木犀ね
初恋の匂いだわと笑う
封筒に優しく想いを入れて
恋する人の心を覗き込むような
期待で郵便受けを開け閉めするような
スマホなんてない時代の話
ある日その少年は手紙に
金木犀を入れてくれたそうです
喜んだひとみさんのために少年は
級友にからかわれながらも校庭の金木犀を摘み
手紙には必ず押し花にしていれてくれたそうです
北国にはないその花のやや強めの芳香は
いつまでも消えることがなく
まるで恋する人の言葉ひとつひとつが
花のように咲いて
聞いたこともないその人の声が
なぜか耳に心地よく語りかけるような
堂々と背筋を正して想いを伝えつつ
最後の行でふと
照れて笑うような
夕焼けの校舎のわきを抜ける風をすこしはらんだ
そんな懐かしい文字に宿る香り
お酒に桜を浮かべてみた
さとみさんとその文通少年の恋が
その後どうなったのかはわからない
今のご主人なのか
とうに終わった淡ーい思い出の中の人なのか
聞いてみたい気もするけど
こういうのは聞かない方が美しい
文字で香りを伝えるって難しい
ぼくの匂いは
若さと悪戯心にあふれた
ぷぷぷ