かたつむりのおはなし

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かたつむりはいろいろ間に合わない

絵筆を握り じっと目を凝らす間に

花は散り

翼は風がさらい

世界は刻々と色を変え

追いつくことができない

美しさというのは

なんて早足なのか

自分の愚鈍さと

かなわぬものを追うことに疲れ

雨に濡れたコンクリート

かじってみたところでやるせなく

殻の中にもぐりこんで

ぬめぬめと泣いた


螺旋の突端までいっぱいの涙に

いっそ心地よく溺れてしまおうか

自らに蓋をして

去っていった美を

記憶の中でこねくりまわしていようか

しょっぱさの中で身を縮めていると

殻がどんどん透けてくる

眩しさは遠慮なく殻の中にはいりこみ

かたつむりを押し出しにかかる


見上げれば

針葉樹の葉の先に

雨の滴がまるく突き刺さって

自分の目とそっくりだ

かたつむりが笑えば

世界を逆さに映し込んだ

何百もの目が笑い返してくる

その下をぐるぐると這い回った

涙混じりの軌跡は

光を巻き込み

銀の波紋となってうねっている


自分はすでに大きな絵画の一部分に

描きこまれていたのだ

そしてその中で

自分も小さく描いていたことを知り

かたつむりは昂然と頭を上げ

にょきにょきと目玉をのばし

もう一度

泣いた


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