あたし満ち欠けするの
ほとほといやんなっちゃった
いつでも煌々と下界を照らし
お月様きれいねなんて
崇められるのもあきちゃったし
地上の悲しみを照らし出すのも
なんだかもうよそうと思って
細っそり面を向けて
三日月のままでさぼっていたい
いやいやそれは困ります
波は一斉にざざあんと抗議する
ぼくら満ち引きしなきゃならないし
砂に残された誰かの文字を
消してしまわなきゃならないし
その波に巻き込まれ
洗われながらガラスの破片は
なりゆきを見守る
わたし達も困るのです
割れたてのわたし達は
誰かを傷つけ血を流させてしまう
でも洗われて洗われて
摩耗して摩耗して
つるんとまるいシーグラスになりたいのです
酔い人を歌わせた注ぎ口も
誇らしくラベルを纏った胴体も
憐憫を沈殿させていた分厚い底も
なくして海に溶け込んで
時間がわたしに授けた有り様を
失くし切るいつかまで
わたしは洗われ続けなければならないのですからと。
このガラスはもとはどんな器だったのだろう
中に何がはいっていたのだろう
なぜ海に捨てられたのだろう
いつから海にいたのだろう
削り取られていった部分て
やっぱり海になってしまったんだろか
ガラスが海になれるなら
命もやっぱり海になれるんだろう
お花をありがとう
あのピンクのお花はチューリップ
春のお花だよ
ピリカの足と同じ色だね