夏の匂い

夏の匂いといえば

イカの青くささ

蚊取り線香のけむたさ

おばあちゃんがところてんを煮る海のにおい

おじいちゃんの好きなガラナのくすりくささ

とうきびのあまいにおい

摘んだばかりのえんどう豆のへたのにおい

だれもかれも汗くさくて

じぶんのあたまもくさかった

磯船のすみっこでひからびた

蟹のこうらのにおい

艪をとめてるぶぶんの錆の鉄くささ

潮風がはこぶ磯くささ

巨大な夕陽が網膜をやいて

喉の奥のこげくささ


あついねえ かいぬし

ああとてもあついよ

だけどぼく ここからでないぞう

            ぷぷぷ


         ピリカ隊長です

ぼくの襟をみてください

カッコいいでしょ

おしゃれで歌もじょうずで

カミカミもちからづよい

ぼくは今日も隊長のおしごとがんばったよ

             ぷぷぷ


夕暮れて

家々の灯りがついた街を

遠い遠い気持ちでながめている

その灯りのもとに寄せ集まって

それぞれの幸せに身を寄せ合っている人々が

こんなに小さな町の

こんなに狭い範囲の中で

ぎゅっと押し込められて生きてるけれど、

ひとりがひとりに出会うこともなく

それはそれはもう途方もなく

星と星ほどに遠く分たれて

ただ孤独だけがほっそりと

それぞれのひとりを

地につなぎとめている

いのちづなのようだ