学校を休んだ次の日
はらだくんの話でもちきりだった
はらだくんは先生のいうことをきかないから
びんたされて
2メートル飛んだらしい
それが右のほっぺなのか左のほっぺなのか
どんなふうなのかきいてみたかったけど
「ぶーん」って音がしたんだ
と、はらだくんは笑っていた
「ぶーん」って音はやがて
「ごごおう」という轟音に誇張され
はらだくんは5メートル飛んだことになっていた
ヒーローになったはらだくんは
そこから飛距離を延ばし続けて
もう誰にもとめられない
窓をつきやぶって廊下まで飛んで
廊下から校庭のあの白線のところを
楽々とこえて
はらだくんの軌跡には白いひこうきくもがうまれ
遠く山の頂の残雪も見えたそうだ
その夏 はらだくんは沖に流された
新聞の、すみっこには
大きな黒い浮き輪だけ帰ってきたと
書いてあった
どんな音がきこえたのかとても とても
きいてみたかったけど
はらだくんは語彙を喪失して
もう
どどーんとかざぶーんとしか言わなくなったから
みんなではらだくんを忘れることにした
はらだくんをびんたしたせんせいが
いちばん先にはらだくんを忘れた
でもひょっとしたら
せんせいは大人だから
忘れるふりが上手なだけだったのかもしれない
忘れてしまっていたことを
思い出しもせずに
忘れたままでいることで
何を守れて
何を失うのか
ぼくらはだれからまなぶのだろう
ピリカのあたらしいけらいが来た
案外ぼくは平気だったよ
ぷぷぷ
ピリカ隊長は...
ひい
ひいいいい