おばあちゃんちのトイレが怖かった
はなれにあったから
夜はいつもぎりぎり限界まで
おしっこをがまんしていた
手のひらみたいなでっかい蛾とか
上からつつーっと降りてきそうな蜘蛛とか
そんなものはどうってことはない
坂をずっとくだって
岩場をぐるりとつたって
その更に奥に打ち寄せてる波の音が
昼間より大きく近く
ひたひたとせめあがり
ハマナスの垣根を越えて
ドアをおし破り
足元を濡らし
耳の中へ注ぎ込んでくるのが怖かった
何をそれほどこわがっているのかと
おばあちゃんは笑っていたけれど
おばけとか虫とか蛇じゃなく
夜が夜であることの怖さ
夜がすぐそこにいて
ただじっとその夜に取り囲まれている怖さ
夜と自分を隔てている
薄く脆い皮膚いちまいの
たよりない隔たりが
幼い子供の足をすくませていたんだ
ほらあれはただの波の音なんだよと
大人がわらうとき
どうしたらそれが
得体の知れない夜の
咆哮ではないと
こどもに理解させることができるだろう
瞬きもできずに夜をみつめかえすこどもが
目にみえるものではなく
見えないものにこそ怯えるわけを
どうしたらおとなたちに
すくないことばで
伝えることができるのだろう
無力なこどもはせいぜい
ばんごはんの後のスイカを
遠慮しておくことでしか
自衛できないんだ
夜風がすずしいね
ぼく 夏ってもっとつらいものと思ってた
窓しめてよ
ちょっと足がひえちゃうよ
あのねピリカ
7月なんてまだこんなもんだよ
これからだんだんどんどん
夏っぽくなるからね
ぷぷぷ