やまのあなたに

ここはテレビの上

ほかほかあたたかくて

ぼくのお気に入りポイントのひとつ

ぼく、とても三角形

ふわふわのおにぎりみたいだね

          ぷぷぷ

 

    ピリカです

ぼくこれカミカミするのだいすきなんだ

最後はくちばしで

ずうーん、ずうーん!って押して

棚から落としたらぼくの勝ち!

           ぷぷぷ

 

カールブッセの

「やまのあなたに」を

小学校の国語の時間にならったとき

とてもときめいて

意味がわからないながら暗記して

何度も繰り返した

そもそも、山の向こうに「あなた」と呼ぶ

誰かがいるけではなかった。

「涙さしぐみかえりきぬ」という表現は

きっとわんわん人目をはばからず泣くこと

ではなくて

さした目薬の液を大事にこぼさないように

目の表面にとどめておくような

迂闊にはこぼしてはいけない種類の涙を

どうにか山の冷たい風が

さらっていかないように

注意深くたたえておくことなんだと

こどものわたしは思っていたわけです

 

やがて詩の意味を勉強して

知るわけです

山の彼方には幸せなどなかったと

さがしにいってみたけれどなかったことを

そしたただ

涙ぐんで帰ったきたんだということを

 

そして大人になったぼくらは知っている

山の彼方を探したところで

海の底をさらったところで

自分でしらないものを

探し当てることなどできないということを

 

ならば

どうするべきでしょうか

泣きながら登り、

涙を止める方法が

山の彼方に果たしてあるものか

或いは、さらに

僕らを泣かすものがそこにあるのかを

みてみるしかないんだ

 

山の彼方に