足は実直だ
歩きなさいと命令されたわけでもないのに
黙って体をうちまで連れ帰ってくれる
心はぱらぱら
途中の道端に落っことしておきざりのまま
構わず足は
曲がるべき場所で曲がり
登るべき坂を登る
寒風は耳を切るようです
でも本当に耳がもげても
気づかないくらい他の場所が痛い
後ろを歩く人が
落ちてる耳に驚いて
遺失物に届けようか
ここの白樺の枝にでもかけておこうか
迷っている間に
足はもう
家に着いて靴を脱ぐところ
耳は1人じゃ帰れないので
ぶよぶよ歪なかたつむりのように
沈黙を聴きとろうとする
片耳を失った体は
無事に帰宅したものの
微妙に平衡感覚を失い
沈黙の湯船で溺れてしまう