公園のベンチで男の人が
ギターを弾いていた
開きかけた桜の前で
ところどころつかえながら歌っていた
こどもたちは完全に無視して
枯れ枝で地面に
規則性の無い線を描いている
ぐねぐね大蛇がのたくった跡のようでもあり
波打ち際のようでもあり
これ以上崩しようのない草書体のようでもある
ギターは下手だが
のびやかな歌声は今日の風と相性がよい
通りをぬけて
木立をぬけて
庭作りに励むご婦人の耳元をぬけて
眩しい目で見上げる芝犬のしっぽを揺らして
去年の落とし物を舞い上げて
忘れたくないものは
忘れていくものの最後尾につけとこう
呑気な心地で一緒に歌えば
かたくなな結び目が春の陽気にほどけて
地面の地上絵も
新しい空にむかって
離陸を始めた
桜の前でその人が歌っていたのは
スピッツの『チェリー』でした
君まったくこの午後にふさわしすぎるじゃないか
かいぬし
ぼく さくらんぼカミカミできるの?
どうだったかな
ぶんちょはさくらんぼ食べていいのかな..
調べておきます