かずくんのCD

豆苗おいしおいし

今からぼくとピリカ、

おんなじポーズするからみてね

 

まずぼく

にこにこ

 

つぎはピリカ

ぷぷぷ

ぼくたちおなじぶんちょだけど

とても顔が違うよねって 

ピリカと笑っていたの

   ピリカです

おにいちゃんはごきげんのとき

頭ぶわわなんだけど

ぼくはちょっとおこってるときぶわわだよ

 

そう

なりゆきさんのいうとおり

くたした団を打ち負かすほうほうを

考えているからね       ぷぷぷ

 

古いCDがでてきた

 

学生の頃、“かずくん”て高校生の家庭教師の

バイトをしていた

カズくんはいろいろやらかして

停学中で

勉強をみる、というよりは

まあ周りの大人よりは

おねえさんの方が心を開きやすいだろうとか

なんとかの理由で

つまんない英文法はさらに

つまんなくなるばかりだし

数学なんて教えられることなど

いっこもないし

おやつを食べながら

お母さんが見にきた時だけ真面目に勉強していた

(ふりをしていた)

 

かずくんのやらかしたことの真偽については

その時まったく話し合わなかった

ジャッジするだけの公平な眼差しや勇気が

徹底的に欠けていたし

いい子と悪い子の線引きなんて

誰にできるだろう

 

彼とは音楽の話をよくした

カーペンターズ

“I Need To Be In Love”って曲が好きだと話したら

このCDを恥ずかしそうにプレゼントしてくれた

「せんせいのために万引きしてきました」と

彼は嬉しそうに照れていた

(私はこれを彼の嘘だとおもってる)

 

いろいろやらかした彼は

学校からあれこれ読書感想文的な課題を

与えられていたけど

期限までに書き上げることができなかった

だって

1冊も1ページも読んでないのだもの

 

で、私がゴーストライターをした

本はいかにも

「人を思いやりましょうとか

 人は1人では生きていけないから助け合いましょうとか

 正しき心こそが尊い」的な

今の彼には黴臭いだろうな...と思う本だったから

ありきたりの優等生な感想文ではなく

彼の清々しい反骨精神や

穿った目線からとらえつつ

若者らしく純粋にぶつかってゆく気持ち

置かれている境遇への悔しさ

理解や歩み寄りをみせない先生への

アイロニーなんかを含めた

結構尖っていつつも

ちゃんと学びを得ているような

感想文をこしらえてやったわけです

 

私の書いた力作感想文を彼は

筆圧の高い文字で清書し

学校に提出してことなきをえた

(評判はどうだったかきいてない)

 

でもその後かずくんは

「感想文が面白くてその本をちゃんと読みたくなった

自分ならどう感じるかを

せんせいと話してみたくなりました」と言って

ちゃんと1冊読み終えることができた

そればかりか

「本ってけっこうおもしろいっすね」って

読書を彼の人生の

愉しみのひとつにいれてくれたのだ

 

 

かずくんお元気ですか

懐かしいCDを見つけて

君を思い出して歌ってみたよ

 

もし君にどこかで再会しても

ほんとに盗んだものかどうかはききません

 

ただ私におしえてほしい

あの当時わたしは

いい子と悪い子の線引きをしなかったけれど

今の君なら

いい大人と悪い大人の線は

どのあたりでひきますか?

と。

 

 

 

 

かずくん...はもちろん仮名です