私が生まれて初めて見た花嫁は

ピリカがとんでる

よし、

ぼくもかっこいい姿を見てもらおう

もったりのっそりしてるぼくだけど

翼はこんなふうに

ふぁさっとのびるの

ぼくの風切り羽

甘いお部屋の空気を切って

ぶんぶんぶんぶん

 

ぼくが飛んでいくのいつもここ

かいぬしの手の中

 

      ピリカです

ぼくもぼくも

かっこよくとべてるとこみて

ピリカ隊のみんなもよく見るように!

隊長のこの

力強い羽ばたき

 

あ、でもおちりは見てはだめです

 

 

私が生まれて初めて見た花嫁さんは

叔母でした

ふと思い出にひたります

 

 

まつ毛がきれいねってほめられたから

叔母の結婚式では

シャッターチャンスには全部

目を閉じていた

あとからどれを見返しても

全部目を閉じた私が写っていて

おばあちゃんは

まったくタイミングがわるいねえと笑ってた

(わたしだけ死んでるみたいで笑っちゃうけど

 思い切りおすまししてるのがわかる)

 

鶴の刺繍の打ち掛け

あたまがぐらぐらゆれちゃうほどの

大きなかつらをかぶって

白をぬりたくった叔母から

着物のほんのり古い匂いと

白粉の人工的な匂いとが混じり合って

昨日まで知っていた人が

今日から知らない人になってしまうような

「しきたり」という名前の

昔から受け継がれてきた

ちょっと錆をはらんだ鍵穴が

甘く腐食していくような

 匂いがしていた

知らない人の匂いになった叔母は

しきりにトイレにいきたがり

3人がかりですそやらおびやら

そろそろと田舎の狭いトイレに誘導し

いちばん上の叔母は

ビール瓶の栓抜きがみあたらないといって

仏壇の引き出しや

鏡台の引き出しや

見当違いのところをひっかきまわして

(あの人はさがしものがへたなのだ)

正装もしてない

いつもよりわずかにレース多めのエプロンの

近所のおばさんや

「鈴木丸」のもちぬしの

鈴木のおじいさんやらが

かってに祝宴を始めていた

 

栓抜きの問題が解決すると

次はコサックがみあたらないと叔母はひと騒ぎ

(つまりコサージュのことだ)

大人の言い間違いを

こどもが正すものではないといわれたので

そのまま

 

おばちゃん、わたしコサック頭につけていい?

だめよ

コサックは胸につけるものなの

学校の名札をつけるのと同じ場所だよ

 

そういわれて

角度によって銀河のように光る

わたしの宇宙ワンピースの胸に

やや黄ばんだコサックをつけて

 

花嫁姿の叔母と手をつなぐ

おばちゃん手まで白く塗るんだね

私の手も白くなっちゃうね

 

叔母のまゆげから2センチ上くらいに

かつらの生え際がきていたはずなのに

今や

眉毛と生え際は一体化し

花嫁さんというのはなんてなんて

苦しいものなんだろうと思った

苦しそうなのに

一生分の「きれいねぇ」を

すべての訪問客からかわるがわる

言われている叔母の隣で

わたしはぜったいに

目をあけて写真にうつらないぞと

かたくかたく決意したこどものころの思い出

 

おばあちゃんがきている黒い着物が

「留袖」というたいへん

おめでたいものであることがわからず

遺影にうつってる

「ひいひいおばあちゃんの喪服」みたいで

嫌だったし

お酒を飲んだ男の人たちは

どこまでボリュームがあがっていくのだし

こどものわたしにものめのめと

悪ふざけするし

(もちろんのみほしてやった)

 

おばちゃん頭痛い?って

ちいちゃな声で聞いたら

いますぐ全部ぬいでしまいたいって

笑っていたから

カメラをむけられるたび

わたしはどこも痛くないし

まつげがきれいといわれたし

コサックもまだちぎれていなし

あの頃はまだ

おばちゃんがだいすきだったから

ぜったい

目を開けて写真にうつらないぞって

決意したの

 

 

という思い出

 

オオワシ一羽だけ描いたのですが

明日はにらさんの結婚式ときき

つがいのオオワシにすることにしました

 

まだ描きかけ