うちに帰りますね
ここの椅子はどうにも
すわりごごちがよく
深く背中を預けると
鹿皮の毛並みにそって
わたしも夜の深淵へと
ずり落ちてしまうものだから
うちに帰りますね
池に映る月を
どろりと揺らし
水底を半身くねらせて
ぬるりと這い進むやつらに
眠りにおちた地点から別の場所へ
拉致されてしまいそうなものだから
うちに帰りますね
身を切り刻んで
最初に落としたのは耳です
うちの中には
優しさしかありません
かけらばかりの己で
小さなおかえりにふさわしい
小さなわたしになって
ちょいとお晩酌
銀杏すっかり黄色くなったね
ひんやり良い夜だった
ピリカ眠そうだね
また明日の朝
元気にリサイタルしてね
むにゅむにゅ
おやすみかいぬし
ぼくもう寝るね
また明日ね